県北雑学メモ 速日峰橋

速日峰橋(延岡市北方町)

 

 

写真を逆さまにしたのではありません。「橋の泊覧会場」といわれる県北には、こんな〝珍橋〟もあるのです。延岡市北方町早上巳(み)の五ケ瀬川支流・深谷 川に架かる「速日峰橋」(はやひのみねばし)は、アーチ橋(下路アーチ橋)をひっくり返したような構造をしていて「逆吊橋」(P.C.逆吊橋)あるいは 「逆吊床版橋」と呼ばれています。
逆吊橋としては日本最初のもので、旧北方町が昭和51年(1976)12月に着工して、翌52年4月に完成しました。長さ48・7メートル、幅4.8メートル(車道部分3.5メートル)です。すでに30数年経ていますが、今でも世界的に珍しい橋なのです。
「逆はわかるが、どこが吊ってあるのか?」という質問が出そうですが、橋げたの下の弓なりなった部分にケーブルが張ってあります。そのケーブルをコンクリートで覆ってあるのです。逆吊橋にしたのは、ケーブルを両端で支える支柱を建てるのが困難だったからだそうです。
おかげで構造的に優れた橋として昭和52年度(1977)の「社団法人土木学会田中賞」に輝いています。田中賞は関東大震災復興のとき東京隅田川の永代橋や清洲橋のほか、新潟市の万代橋などを手がけた日本の橋梁技術第一人者・田中豊博士にちなむ栄誉ある賞です。
速日峰橋のほかに、過去宮崎県で田中賞を受賞した橋は、同じく延岡市北方町の「干支(えと)大橋」(平成6年=1994)と、日之影町の「天翔(てんしょう)大橋」(平成12年=2000年)しかありません。いずれも県北ですからすごいですね。
でも、速日峰橋へ行くには小さな車でないとチョッと大変なんです。延岡市内から国道218号線を高千穂方向に走ること約20分、北方町蔵田で県道237号 線(旧国道218号線)に入り、天馬大橋、干支大橋をくぐって2、3分進むと、同町の城(じょう)地区に出ます。道路の端に「城小学校」の文字と、矢印に ヘビがからみついた絵の看板があるので、すぐわかります。
「ヘビにご用心」という警告板ではなく、城一帯が十二支の「巳」と呼ばれる地区ですから、看板がヘビになっているわけです。北方町は延岡市と合併する以前 から「日本唯一干支の町」として知られ、町のいたるところに十二支の動物が描かれた街灯やレリーフ、モニュメントが見られます。
さて、ヘビ看板の城小入り口から五ケ瀬川に架かる城橋を渡り、突き当たりを左に曲がって猿渡(さわたり)方向へ2キロほど進むと、左手に橋が見えてきます。これが速日峰橋です。
城橋を渡ってから猿渡方面へ向かう道路は幅が狭く、離合場所も少ないので通行は細心の注意が必要です。ガードレールのないところもあるので、脱輪しないように。また降雨時や雨上がりは、落石の危険度が高くなるので、これまたご用心。
速日峰橋は文字通り速日峰(868メートル)の西側に位置し、深谷川が造った深い渓谷をまたいでいます。橋の上から谷底までは30メートルほどあって、下をのぞくと足がすくみます。
しかしここにくると、ザーザーと途切れることのない渓流の音、どこからともなく聞こえてくる小鳥のさえずり、渓谷を渡ってくる冷え切った風、街中の喧騒からしばし解放され、癒されます。
ただ残念なのは、木々に邪魔されて肝心な橋の様子がよく確認できないことです。以前は樹木も少なくて、よく見えたのですがね。せっかくの珍橋ですから、眺めることができるようになるといいのですけどね。