宇納間備長炭の伝統を下支えする“Iターン”移住者の方々
北郷区の炭焼き農家40戸中、7戸がIターン組だ。田舎暮らしやスローライフといった言葉が時代のキーワードだとしても、異例の多さと言えるだろう。
窯出しの作業風景を見せてもらったのは、富原啓進さん(68)の窯。隣接する窯の持ち主、大和久武さん(41)とほぼ同時期の平成16年から炭を焼く、Iターン組の草分け的存在。富原さんは滋賀県で精密板金の仕事を兄弟でやってきたが、体が動くうちに引退して、のんびり暮らそうと妻靖子さん(66)と2人で北郷村(当時)にやってきた。炭焼き50年のベテラン、小田幸正さん(79)に弟子入りし、少しずつ、炭焼きのやり方を習得していった。
長年、ものづくりに携わってきた富原さんにとって、炭焼きは探究心を刺激する、新たなフィールドとなった。「窯を開くまで、どんなものが出来ているか分からないのも炭焼きの魅力。まだまだこれから」と富原さん。今では小田さんをうならせるほどの、見事な炭を焼く。また、生活面でも時間ができたそうで、靖子さんは「仕事が忙しかったころは『めし、ふろ、ねる』の人でしたが、こちらでは会話が増えました。その分、ケンカも増えましたけれど」と笑っていた。
この日の窯出しには、大和久さんのほかにも、Iターン仲間の狩峰和彦さん(58)、森寛さん(34)が手伝いに訪れた。みんな口をそろえたのは、北郷区には役場や農協といったIターンを受け入れる態勢が整っているということ。そして、自然の中での炭焼き生活は、流れる時間、水、空気、食べ物が素晴らしく、何物にも代えがたい魅力があるということだった。


富原啓進さん

滋賀県出身/平成16年に入町

Iターンでの宇納間備長炭職人のパイオニア的存在である。

小田幸正さん

Iターン者の指導に当たっている小田さん。富原さんの師匠である。「最近では弟子の方がいいものを作る」と、嬉しそうに語る。

  
 
 

 狩峰和彦(かりみねかずひこ)さん

佐賀県出身/平成18年入町

森寛(もりひろし)さん

神奈川県出身/平成20年入町

大和久武(おおわくたけし)さん

 東京都出身/平成16年入町

富原靖子(とみはらやすこ)さん

啓進さんの妻・料理上手