宮野浦八十八ヶ所大師祭

落ち葉に覆われた林間の遍路道(へんろみち、参拝路)を、ゆっくりと登る。4番札所から5番札所へと続く長くて急な登りは、コース最大の難所である。
八十八ケ所を巡る遍路の旅は始まったばかり。途中、かつて数千枚あったという段々畑の名残や肥だめ跡などが確認できるが、観察する余裕はない。足が重く感じられ息も荒くなってきた。
ようやくたどり着いた5番札所では、石を重ね合わせた祠(ほこら)に鎮座する大師像が待っていた。立ち止まり手を合わせ無病息災、家内安全を願い、次の札所を目指した——。
延岡市の最北端に近い北浦町宮野浦。背後にある遠見山の尾根伝いには88体の大師像が安置されている。宮野浦の「お大師さん」を訪ねた。

  
 札所は、四国霊場八十八ケ所を模し、寺の名前も同じ順番で配置されている。一体の高さは40センチほど。大師像にかけられた〝腹掛け〟には、「奉納」「同行二人」の文字と寄贈者の名前、参拝した日付が書かれている。彫りがかすれつつあるお顔が、安置後200年近い歳月の重さを物語る。
遍路のスタートとなる一番札所は、集落の玄関口、市道脇に建つ高さ5メートル(台座含む)の「修行大師」が目印。集落北部の山裾に建つ88番札所まで、集落を取り囲むように配置され、遍路道の総延長は約6キロにもおよぶ。アップダウンを繰り返す標高差約200メートルの遍路道は、急いで歩いても3〜4時間はかかる。
遍路道沿いや日向灘を望む場所に配置された祠には、花やシキミが供えられ、側には腰を下ろせるベンチもほぼ各礼所ごとに設置されている。
普段から参拝する人は多いが、最もにぎわうのが毎年旧暦の3月21日(今年は4月23日の土曜日)の「お大師さん(大師祭)」。市内外から白衣に袈裟をかけ、金剛杖と念珠を持った大勢の「お遍路さん」が詰めかける。地区内では旧暦7月21日にも大師祭があり、遍路道の整備などが地区あげて行われるが、来訪者は3月ほどではない。
各札所は昔から、西、中西、芝方、東という4地区が分担して守ってきた。
各戸持ち回りで接待を行うのが決まりで、大師祭時には遍路道の途中、6〜7カ所でお接待がもたれ、赤飯やひじき、お酒、お茶などが振る舞われる。
農山村の過疎化が進む中、宮野浦地区の住民も現在、308戸、673人(平成23年2月1日現在)ほどに減り、高齢化が目立ってきた、という。
しかし、八十八の札所を回って見て、「先人たちが残してくれた大切な文化財を、これからも守っていきたい」という住民たちの共通した思いと願いが、ヒシヒシと感じられた。