日向市駅
 
 
日向入郷地区の玄関口、日向市駅が新しくなって3年。
駅舎は数々の賞を受賞し、高い評価が定着した。
また、線路 と駅によって東西に分断されていた日向市の中心市街地は、
鉄道高架化に伴い、着実にまちづくりの歩を進めている。
日向市駅を改めて紹介し ながら、これまでの取り組みを振り返り、
あすのまちづくりのヒントを探る。
 
 

 

 

杉の文化を表現

日向市駅は、宮崎県日向市上町にあるJR日豊本線の駅。全列車が停車する日向市の代表駅だ。現在の駅 舎は平成18年12月17日に開業した。日向市出身のプロ野球選手、東京ヤクルトスワローズの青木宣親選手らを一日駅長に迎え、盛大に出発式が開かれたの は記憶に新しい。

 

鉄骨と木材のハイブリッド構造 

 杉の生産日本一の宮崎県。その中心的な産地となる耳川流域の杉材をふ んだんに使った駅舎は、近代的でいて、どこか懐かしさもただよう、不思議な空間を醸し出す。柱を鉄骨、梁を木材としたハイブリッド構造で、木材部は強度を 増した変断面集成材を採用することで、ホーム上に柱を立てずに駅舎を覆う木造大屋根を実現した。
 そのほかのスペースも、杉材をふんだんに使用 し、駅務室と駅舎の東西をつなぐ中央コンコース、駅舎の東西にある庇(ひさし、キャノピー)は間伐材などを用いて天井材とした。そのほか、高架下の多目的 トイレ、まちの駅「とみたか」といった施設まで杉を仕上げ材に用いたことで空間に一体感を創出し、日向入郷地区が培ってきた「杉の文化」を、まちの玄関と なる日向市駅に表現することができたという。
 

世界に認められたデザイン

 日向市駅は建築物としての評価も高 く、2007年には林野庁長官賞、国交省鉄道局長賞、九州建築賞建設部門作品賞優秀作品として表彰され、2008年には構造デザイン賞、ブルネル賞、 2009年には国内の優れた建築物に贈られるBCS賞(建築業協会賞)を受賞した。特にブルネル賞は鉄道建築の世界では最も栄誉ある賞とされ、駅舎部門で の受賞は日本初。パリ駅、ドレスデン駅、セント・パンクラス駅といった世界の主要駅と肩を並べることになった。

 

 

 

 

 

 

 鉄道高架化でまちづくり進展

1921年(大正10年)に富高駅として開業。1963年(昭和38年)に日向市駅に改名した。連続立体交差事業(鉄道高架事業)は、日向市駅近辺の踏切による交通渋滞緩和と鉄道により東西に分断されたまちの一体化を目的に県が平成10年度から取り組んだ事業。日向市駅を中心に南北約1・7キロ区間を高架化することで、原町踏切など3カ所の踏切を廃止し、新設の6本の市道を含む9本の道路が高架下を通過することになった。
 日向市は鉄道高架化に併せて、中心市街地の魅力と賑わいの再生を目的に、日向市駅周辺土地区画整理事業、商業集積事業といった関連事業に一体的に取り組んだ。平成11年には東京大学大学院の篠原修教授(当時)を会長とする日向市駅鉄道高架デザイン検討委員会が立ち上がり、高架橋、駅舎、駅周辺のまちづくりに関して、検討が始まった。何度もシンポジウムなどを開きながら、少しずつコンセプトを固めていき、平成13年にデザインを決定し、その後も後継の日向地区都市デザイン会議で詳細を詰めていった。
 

子どもたちへの特別授業も

 駅舎を含む高架化事業は平成14年に起工し、少しずつ新しい姿を現していった。構造から導かれた大屋根梁の変断面集成材の開発といったハード面から、公民協働のまちづくり、中心市街地の商業集積のための再開発など、課題は多岐にわたった。また、子どもたちに、自分たちの街に関心と夢を持ってもらおうと、富高小学校の協力を得て、まちづくりと一体となった特別授業も展開された。「移動式夢空間」と名付けられた杉製の屋台制作の一連の取り組みはグッドデザイン賞を受賞した。