神々と里人が舞明かす 高千穂の夜神楽
トンカコカッカコ トンカコカッドンドン。笛と太鼓の神楽拍子が響く中、国指定重要無形民俗文化財「高千穂の夜神楽」は、毎年11月から翌2月にかけて、各地区ごとに舞われる。神々を迎えた神楽宿で、一晩舞い明かして感謝と祈りをささげる村祭りだ。

神楽宿の中には、神々と里人の絆が表現された彫り物と注連縄を四方にめぐらせた神庭が設けられ、ここで「ほしゃどん」と呼ばれる舞い手たちが神楽三十三番 を舞い続ける。面(おもて)を付けて舞う神楽は地割、山森、五穀、七貴神、八鉢、御神体といった神々の舞い。対して、面をつけない「素面舞」は清め祓い、 鎮魂、豊穣祈願などの願神楽で、それぞれに意味がある。

高千穂町歴史民俗資料館(高千穂町コミュニティセンター)の緒方俊輔学芸員によると、高千穂の神楽には、大きく分けて5系統あるという。三田井系は高千穂 郷八十八社の総鎮守である高千穂神社周辺に伝わる神楽。五ケ瀬川を挟んで諸塚に近くなる秋元神楽は、修験道の影響が強く残っている。岩戸系では「彦舞」が なく「蛇切」がある。から始まるが「岩戸地区は高天原なので神降臨の必要がない」からとか。上野・田原系は「地固」の太鼓と太刀の神事に特徴がある。岩井 川系は日之影町の大人神楽の流れをくむとされ、田植神楽があり、岩戸開きでは天照大神が登場する。押方・二上系は「日の前」を「火の舞」として、顔にかま どのスミを付けて舞う。系統ごとの違いを比べるのも楽しそうだ。
また、高千穂神楽を堪能した後は、近隣の他地域の神楽と見比べてみるのもお勧め。例えば高千穂神楽では主に近世後期の国学による神道色、諸塚神楽では神仏 習合の修験道色、椎葉神楽では狩猟習俗やアニミズム色が強く残っていることがわかるという。緒方学芸員は「彫り物ひとつとっても、地区ごとに違いがある。 そうした違いや特徴を見つけて周っても楽しい。高千穂の夜神楽にきっと夢中になりますよ」と話している。

 
  

夜神楽見学のマナー

夜神楽はあくまで村人たちの村まつりです

夜神楽は秋の収穫感謝、冬の鎮魂儀礼、春の豊穣余祝を祈願する「氏神様の村まつり」です。氏神様を里の神楽宿にお招きし、三十三番の神楽を夜を徹して奉納します。
観光で神楽宿を訪れた人たちも一夜氏子となり、一緒に神楽を楽しめます。ただし、あくまでも村人たちの村まつりであることを忘れずに。見学する際は、初穂料や御神前、寸志として焼酎2、3本(あるいは同額程度の現金)を持参するのがマナーです。なお、かっぽ酒や煮物などの振る舞いがある神楽宿もありますが、本来は神々と村人が神人一体となる直会の儀式料理です。あくまでも地区ごとのしきたりの中での接待ですから、当然あるものではない、ということをわきまえたいものです。その上で、勧められたときにはありがたく頂戴し、村まつりを大いに楽しみましょう。