宮崎県北の自然を知る②

1.野生動物写真家に訊く県北の自然。
2.絶滅危惧されている生物たち
3.わたしたちにできること


■□レッドデーターブック■□
  「レッドデータブック(RDB)」は、全国版から各県版まであり、さまざまな動植物がこの世界から消えつつあることが記してあります。宮崎県版を見てみても、多くの動植物が消え去り、または消えようとしているかが一目瞭然です。
宮崎県版RDBの主に昆虫の分野を編纂した、五十鈴小学校校長、岩﨑郁雄さんの専門は、トンボと水生生物です。物言わぬ昆虫たちですが、敏感に感じた環境の変化を、身を持って岩﨑さんに教えてくれます。岩﨑さんが今、気になっているのは、水環境の悪化と温暖化です。
■□グンバイトンボ■□
グンバイトンボという絶滅危惧種のトンボがいます。人里に近いところに生息する環境指標種として重要な昆虫なのですが、今、県内では延岡市北川町の家田・川坂湿原でしか確認されないそうです。グンバイトンボは緩やかな流れで水質が良いところでしか生きていけません。その環境がなくなっているのです。
■□崩れる生態系のバランス■□
温暖化の影響では、南国の昆虫が生息域を北に広げている状況が見られます。フェニックスを害するヤシオオオサゾウムシは有名ですが、最近では、クロマダラソテツシジミというチョウが話題です。幼虫がソテツを食べますが、一昨年、昨年、今年と確認されています。昨年は延岡市でも確認されたたそうで、今年も県北まで来る恐れがあります。
イトトンボの仲間で、ベニイトトンボという昔からいた種を、リュウキュウベニイトトンボという南から入ってきた種が駆逐するという現象が起こっています。リュウキュウベニイトトンボの方が少しだけ強いので、いろんな環境に入り込むことができるのです。
■□タガメの復活■□
もちろん、悪くなるばかりでもありません。昆虫に対する農薬の影響は大きいのですが、無農薬、減農薬への取り組みが広がるにつれて、地域によっては復活している昆虫もいます。例えば、やはり絶滅危惧種のタガメは、ほとんど見られなかったのですが、この数年で確認例が増えてきています。
■□人間だけが特別ではないのです■□
 岩﨑さんは「希少種だけを守るわけではなく、普通にいる種も含めて、環境そのものを守ることが大事です」と話します。
  当たり前のことですが、人間も生き物です。いろいろなつながりがあって私たちの生活があります。昆虫の1種類が増えたり、減ったりすることは私たちに何の関係もないことのようにも思えますが、生態系にどんな影響を及ぼし、私たちにどんな影響を及ぼすのかは、だれにも分かりません。現に増えすぎたサルやシカの食害は、農林業に多大な影響を及ぼしています。要はバランスが大事なのです。 「地球上ではさまざまな生物が目に見えないような関係で存在していますが、種の絶滅で、その関係が少なくなると人類にも影響を与えると思います。人間だけ特別ではないのです」と岩﨑さんは指摘します。